4人アナーキーをめぐって
2009年 02月 21日
再始動後のアナーキーは、「デジタル・ロック期」として括られるが、そうした前知識などなく、はじめて『ディンゴ』を聴いた時の驚きは相当なものだった。「アナーキー=音楽的に変化して行くバンド」だというのが『デラシネ』好きの私の感覚だったので、再始動にあたってかつてのバンド・イメージを覆してくるだろうとは思っていた。具体的には、90年代以降のグランジやハード・コア、ヒップ・ホップをミクスチャーした音になると予想してもいた。しかし、『ディンゴ』に過剰なまでにあふれるデジタルなビートの音圧はそんな予想を軽く上回っていた。
アルバム冒頭から凶暴にシーケンサーが走り、デジタルなブレイクが随所に埋め込まれる。おそらくアナーキー史上、もっともスタジオ・ワークに手間暇をかけたアルバムではないだろうか。バンドの方もデジタルなタイム感で一気に走り抜けていく。とくに藤沼氏のデジタルなビートにぴたりと寄り添ったスラッシュ・ギターは、第2期泉谷しげる with Loser や Ruby でタメの効いたブルージーな音を聴かせていたのと同じギタリストとはとうてい思えないほど、大きくスタイルを変えている(注)。また、仲野氏もバンドの音圧にあおられるように、叫び、ラップ調のボーカルを吐き出してゆく。かくして、『ディンゴ』は過剰なまでのデジタルな勢いと音圧を誇るアルバムとなった。
こうしたバンドの変化には当時やはり驚かされた。ただその一方で、実にアナーキーらしいとも思った。自分達のアンテナに引っかかった音をその時々で過剰なまでに突き詰めていく姿勢が、アナーキーというバンド本来の資質だと思うからだ。そうした意味で、4人アナーキーの中でも破格の勢いを誇る『ディンゴ』は再評価されてほしいアルバムなのである。
注 藤沼氏はソロ・プロジェクトとして舞士というトリオを組んでいた。当時、私が聴いたのは1994年発売の『叶』。そこで聴けるのは、ルーザーやルビーでの演奏の延長上の音だったので、よけい『ディンゴ』での藤沼氏には驚かされた。『ディンゴ』の翌1988年に発売された舞士のミニ・アルバム4部作を聴くと、藤沼氏が急速にデジタルな音作りに傾倒していったことがわかる。
(涛々・当館研究員)
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アナーキー『ディンゴ』[Invitation/VICL-60123] (1987)
①ノー・ライフ (w: 仲野茂 m: 藤沼伸一)
②S・M (もっと もっと もっと)
(w: 仲野茂 m: 藤沼伸一)
③NO WAY (w: 仲野茂 m: 藤沼伸一)
④ZERO (w: 仲野茂 m: 藤沼伸一)
⑤似て非なるもの (w: 仲野茂 m: 藤沼伸一)
⑥BROILRE (w: 仲野茂 m: 藤沼伸一)
⑦ILLUSION (藤沼-寺岡)
⑧世界中のコンピューターが狂いだす日
(w: 仲野茂 m: 藤沼伸一)
⑨Bac@Teria (w: 仲野茂 m: 藤沼伸一)
⑩毒裁者 (w: 仲野茂 m: 藤沼伸一)
⑪D.Y. Syndrome (m: 藤沼伸一-寺岡信芳)
※仲野茂/藤沼伸一/寺岡信芳/名越藤丸
※藤沼伸一