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花田裕之を「記念」します


by toto-toto-akie
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オリジナル・サウンドラック『青春の殺人者』

ゴダイゴ関連の新譜を紹介したい。長谷川和彦監督の映画『青春の殺人者』(公開:1976、制作:ATG)のオリジナル・サウンドラックである。

オリジナル・サウンドラック『青春の殺人者』_c0147713_19464362.jpg


この映画には、ゴダイゴのファースト・アルバム『新創世紀』の収録曲のほか、録り下ろしの楽曲が使用された。映画公開当時、サントラは制作されず、ゴダイゴ・ファンの間では「幻のアルバム」として語られたりしていた。それが30年以上の時を経て1枚のディスクにまとめられたのである。そのことをまずは喜びたい。

ライナーには、長谷川監督とタケカワユキヒデ氏の対談が収められているが、その中から私が気になったエピソードを2つ紹介する。

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まず1つ目は、録り下ろしの楽曲の録音について。

何せあのATG制作なので予算がなく、録り下ろしのギャラを支払えないと監督がゴダイゴ側に打診したところ、ミッキー吉野が「ギャラはいらないが、その代わり良いスタジオだけは使わせてくれ」という趣旨の回答をしたという。あるインタビューで、浅野孝己氏がスタジオやエンジニアに対してかなり過酷な要求を課すことで、スタジオ環境を改善していったと回想しているのを読んだことがある。今回明らかになったミッキーの「良いスタジオだけは使わせてくれ」発言も、初期のゴダイゴ(と、その制作事務所であるジェニカ・ミュージック)がいかに「良い音」を録ることができるスタジオ環境に固執していたかを証すものだろう。

ただし当館でわざわざこのエピソードを紹介するのは、初期ゴダイゴの音源の音の良さを強調するためだけではない。「良い音」を最大限に求めることがジェニカ・ミュージックの制作風土だったとすれば、それはルースターズの音源にも反映されていたのではないかと想像するからだ。ルースターズのファーストが、1980年前後にリリースされたアルバムの中でどうして群を抜いて「良い音」なのか(注)。北九州から出てきたばかりの若い4人が具体的なスタジオ・ワークに精通していたとはとても思えないので、ジェニカ・ミュージックが要求する水準がルースターズにも適用されたと考えるのが妥当なのではないだろうか。

注)比較対象を同世代の同傾向のバンドに絞ると、よりはっきりとルースターズの突出感がわかるのではないか。アナーキーのファーストや初期のARB、モッズなどのアルバムは楽曲の良さは別として、バンドの勢いをじゅうぶんにとらえることが出来ていただろうか? バンドの勢いをスポイルしなかったアルバムは、録音環境の劣悪さを逆手に取り、一気に走り抜けたロッカーズのファーストくらいだというのは逆説的すぎるだろうか。

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2つ目は、ロックが映画音楽として使用されたことについて。長谷川監督は、「少し前のATGの監督であれば前衛ジャズを使用した」と発言している。そうした意味で、『青春の殺人者』とゴダイゴは日本の1970年代の中盤という時代を画したわけで、その記録が今回のサントラと言えば良いだろうか。

『青春の殺人者』という映画自体、同時代の社会的な状況を色濃く反映した作品だと思うが、そこで使用されたゴダイゴの楽曲も70年代中盤の音楽的な状況の強い刻印を受けている。とくに興味深いのは録り下ろしの楽曲である。

ミッキー吉野がアメリカから帰国して日本での音楽活動を再開する際の方向性として、ポップなフィールドとアンダーグラウンドとの2つの選択肢があったという。結局ミッキーは前者を選択した(タケカワ氏と組む、ということはそういうことだ)わけだが、もう一方のアンダーグラウンドな方向性としてミッキーは具体的にどのような音を考えていたのだろうか。おそらくその答えの一端が、『青春の殺人者』の録り下ろし楽曲からうかがえる同時代の実験的なミュージシャンたちとのヴィジョンの共有なのである。ミッキーの場合、そのツールとなったのはローランドのシンセサイザー。そのツールを駆使し、アヴァンギャルドな音空間を描き出す。そうした中で出色なのが、フリップ&イーノとアイディアが重なる⑪や、ゴダイゴのファンキーな演奏の中に強引に暴力的な音をねじ込んでいく⑩であろうか。

こうした前衛的な楽曲と、『新創世紀』のポップなロックが何の違和感もなく共存する、当時のミッキー吉野のヴィジョンが具現化されたアルバム。それが『青春の殺人者』なのである。

     (涛々・当館研究員)

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original soundtrack『青春の殺人者』[G-matics/GMT-025]

 ①想い出を君に託そう オープニング
 ②白い小鳥 (インストゥルメンタル #1) 順とケイ子
 ③順と父
 ④死体
 ⑤死者の声
 ⑥イエロー・センター・ライン (ショート・バージョン) 夕焼け-祭の街へ
 ⑦想い出を君に託そう (スキャット・バージョン) 回想-更地にて I
 ⑧想い出を君に託そう (インストゥルメンタル #1) 回想-更地にて II
 ⑨想い出を君に託そう (インストゥルメンタル #2) 回想-更地にて III
 ⑩おかしなウエディング 8mmフィルム「磔刑」
 ⑪白い小鳥 (インストゥルメンタル #2) ケイ子のイチジク
 ⑫殺意-フラッシュ・バック
 ⑬憩いのひととき (インストゥルメンタル) 回想-海岸のアイスキャンディー売り
 ⑭マジック・ペインティング 回想-スナック開店風景
 ⑮憩いのひととき (ショート・バージョン) エンディング-高速道路

 -extra track-
 ⑯スティーヴ・フォックス笑い声
by toto-toto-akie | 2010-12-24 19:47 | Godiego 別館