細野晴臣『泰安洋行』
2008年 04月 20日
ここで私が強調するまでもなく、このアルバムはYMO結成以前の細野氏のソロ・ワークとしては最高傑作であり、日本の音楽史に今後も残りつづけるであろう金字塔である。これもいろいろなところで言われていることだが、このアルバムの「音の素」は、ニュー・オリンズ、カリプソ、ハワイアン、マーティン・デニー、沖縄音楽などなどである。それらがごちゃまぜんにされた(当時の細野氏の表現で言えば、チャンプルーされた)摩訶不思議な音が鳴り響いている。しかも、いかがわしいまでにオリエンタルでエキゾティックな雰囲気があふれかえっており、聴いていてめまいがしてくる瞬間さえある(そのいかがわしさをジャケット・ワークがみごとに視覚化してみせている)。
一言でまとめれば、頭の中だけで鳴っているヴァーチャルな音空間ということになろうか。しかしこのアルバムが奇跡的な傑作になりえたのは、その頭の中の音を具体的な音に変換してみせた、作曲家・編曲家としての細野氏の才能が1つのピークをむかえていたからであろう。また、何にもましてそれらの楽曲に肉体性を与えることができた参加ミュージシャンの演奏レベルの高さがあったからであろう。まさしく幸福なアルバムなのである。
最後に個人的なことを書かせてもらう。20数年前、このアルバムを最初に聴いたときには頭の中が「?」だらけになってしまい、まったく受け付けなかった記憶がある。ただしこのアルバムが特別だったのは、そうした記憶があったにもかかわらず、思い出したように聴き返し、少しずつ頭の中の「?」が「!」に変わって行くという体験をさせてくれた点である。20年近くをかけて耳になじんできたわけで、そういう意味でも愛着のあるアルバムである。
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細野晴臣『泰安洋行』(1976.7.25)
①蝶々-San (w/m: 細野晴臣)
②香港 Blues (w/m: Hoagy Carmichael)
③"Sayonara", The Japanese
(w: Freddy Morgan m: Hasegawa Yoshida)
④Roochoo Gumbo (w/m: 細野晴臣)
⑤泰安洋行 (m: 細野晴臣)
⑥東京 Shyness Boy (w/m: 細野晴臣)
⑦Black Peanuts (w/m: 細野晴臣)
⑧Chow Chow Dog (w/m: 細野晴臣)
⑨Pom Pom 蒸気 (w/m: 細野晴臣)
⑩Exotica Lullaby (w/m: 細野晴臣)
※細野晴臣; vo, b, 三味線, dr, steel drum, marimba, vibes, o, p/
with
鈴木茂; g, back vo/谷口邦夫; steel guitar/林立夫; dr, per, back vo/浜口茂外也; per/佐藤博; p, clavinet/矢野顕子; p, back vo/岡田徹; accoodion/村岡建; tenor sax/砂原俊三; baritone sax/岡崎弘; alto sax/市橋一宏; back vo/大瀧詠一; back vo/大貫妙子; back vo/川田琉球舞踊団; back vo/久保田麻琴; back vo/小坂忠; back vo/中根康旨; back vo/山下達郎; back vo/宿霧十軒; back vo/山下よた郎; voices
※producer: 細野晴臣
※①は1972年の映画『脱出』で、③は1944年の映画『SAYONARA』でそれぞれ使用された楽曲のカヴァー。
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なお当館所蔵の『泰安洋行』は、『HARRY HOSONO/CROWN YEARS 1974-1977』[CROWN/CRCP-20386~88] (2007)に収録のもの。
涛々(当館研究員)